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I 精神神経に作用する薬
1 かぜ薬
1)かぜの発症と諸症状、かぜ薬の働き
2)主な配合成分等
3)主な副作用、相互作用、受診勧奨
2 解熱鎮痛薬
1)痛みや発熱が起こる仕組み、解熱鎮痛薬の働き
2)代表的な配合成分、主な副作用
3)相互作用、受診勧奨
3 眠気を促す薬
1)代表的な配合成分等、主な副作用
2)相互作用、受診勧奨等
4 眠気を防ぐ薬
1)カフェインの働き、主な副作用
2)相互作用、休養の勧奨等
5 鎮暈薬(乗物酔い防止薬)
1)代表的な配合成分、主な副作用
2)相互作用、受診勧奨等
6 小児の疳を適応症とする生薬製剤・漢方処方製剤(小児鎮静薬)
1)代表的な配合生薬等、主な副作用
2)相互作用、受診勧奨
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Ⅰ 精神神経に作用する薬
1 かぜ薬
1)かぜの発症と諸症状、かぜ薬の働き
かぜの症状は、くしゃみ、鼻汁・鼻閉(鼻づまり)、咽頭痛、咳、痰等の呼吸器症状、発熱、頭痛、関節痛、全身倦けん怠感等の全身症状が、様々に組み合わさって現れる。「かぜ」は単一の疾患ではなく、医学的にはかぜ症候群という、主にウイルスが鼻や喉のどなどに感染して起こる様々な症状の総称で、通常は数日~1週間程度で自然寛解する。
原因のほとんどはウイルスの感染であるが、その他、細菌の感染や、まれに冷気や乾燥、アレルギーのような非感染性の要因による場合もある。原因となるウイルスは、200種類を超えるといわれており、それぞれ活動に適した環境がある。そのため、季節や時期などによって原因となるウイルスの種類は異なるが、いずれも上気道の粘膜から感染し、それらの部位に急性の炎症を引き起こす。
かぜとよく似た症状が現れる疾患は、喘息、アレルギー性鼻炎、リウマチ熱、関節リウマチ、肺炎、肺結核、髄膜炎、急性肝炎、尿路感染症等多数あり、急激な発熱を伴う場合や、症状が4日以上続くとき又は悪化するようなときは、かぜではない可能性が高い。また、発熱や頭痛を伴って、悪心・嘔吐、下痢等の消化器症状が現れることがあり、俗に「お腹にくるかぜ」などと呼ばれるが、これらはかぜの症状でなく、ウイルスが消化器に感染したことによるもの(ウイルス性胃腸炎)である。
インフルエンザ(流行性感冒)は、かぜと同様、ウイルスの呼吸器感染によるものであるが、感染力が強く、また重症化しやすいため、かぜとは区別して扱われる。
かぜ薬とは、かぜの諸症状の緩和を目的として使用される医薬品の総称であり、総合感冒薬とも呼ばれる。かぜの症状は、生体にもともと備わっている免疫機構によってウイルスが排除されれば自然に治る。したがって、安静にして休養し、栄養・水分を十分に摂ることが基本である。かぜ薬は、ウイルスの増殖を抑えたり、体内から取り除くものではなく、咳で眠れなかったり、発熱で体力を消耗しそうなときなどに、それら諸症状の緩和を図るものである。
なお、かぜであるからといって必ずしもかぜ薬(総合感冒薬)が選択されるのが最適ではなく、発熱、咳、鼻水など症状がはっきりしている場合には、効果的に症状の緩和を図るため、解熱鎮痛薬、鎮咳去痰薬、鼻炎用内服薬などが選択されることが望ましい。該当しない症状に対して不要な成分が配合されていると、無意味に副作用のリスクを負うこととなりやすい。
2)主な配合成分等
(a) 発熱を鎮め、痛みを和らげる成分(解熱鎮痛成分)
かぜ薬に配合される主な解熱鎮痛成分としては、アスピリン、サリチルアミド、エテンザミド、アセトアミノフェン、イブプロフェン、イソプロピルアンチピリン等がある。解熱作用がある生薬成分としてジリュウが配合されている場合もある。また、ショウキョウ、ケイヒ等が、他の解熱鎮痛成分と組み合わせて配合されている場合がある。これら成分については、Ⅰ-2(解熱鎮痛薬)を参照のこと。
このほか、解熱作用を期待してゴオウ、カッコン、サイコ、ボウフウ、ショウマ等、鎮痛作用を期待してセンキュウ、コウブシ等の生薬成分が配合されている場合もある。ゴオウについてはⅣ-1(強心薬)、センキュウ、コウブシについてはⅥ(婦人薬)を参照のこと。カッコン、サイコ、ボウフウ、ショウマについては、ⅩⅣ-2(その他の生薬製剤)を参照のこと。
なお、サリチルアミド、エテンザミドについては、15歳未満の小児で水痘(水疱瘡)又はインフルエンザにかかっているときは使用を避ける必要があるが、一般の生活者にとっては、かぜとインフルエンザとの識別は必ずしも容易でない。医薬品の販売等に従事する専門家においては、インフルエンザ流行期等、必要に応じて購入者等に対して積極的に注意を促す、又は、解熱鎮痛成分がアセトアミノフェンや生薬成分のみからなる製品の選択を提案する等の対応を図ることが重要である。
(b) くしゃみや鼻汁を抑える成分(抗ヒスタミン成分、抗コリン成分)
かぜ薬に配合される主な抗ヒスタミン成分としては、マレイン酸クロルフェニラミン、マレイン酸カルビノキサミン、メキタジン、フマル酸クレマスチン、塩酸ジフェンヒドラミン等がある。また、抗コリン作用によって鼻汁分泌やくしゃみを抑えることを目的として、ベラドンナ総アルカロイドやヨウ化イソプロパミドが配合されている場合もある。これら成分については、Ⅶ(アレルギー用薬)を参照のこと。
(c) 鼻粘膜の充血を和らげ、気管・気管支を広げる成分(アドレナリン作動成分)
かぜ薬に配合される主なアドレナリン作動成分としては、塩酸メチルエフェドリン、メチルエフェドリンサッカリン塩、塩酸プソイドエフェドリン等がある。これらと同様の作用を示す生薬成分として、マオウが配合されている場合もある。いずれも依存性がある成分であることに留意する必要がある。
塩酸メチルエフェドリン、メチルエフェドリンサッカリン塩及びマオウについてはⅡ-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)、塩酸プソイドエフェドリンについてはⅦ(アレルギー用薬)を参照のこと。
(d) 咳を抑える成分(鎮咳成分)
かぜ薬に配合される主な鎮咳成分としては、リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン、臭化水素酸デキストロメトルファン、ノスカピン、ヒベンズ酸チペピジン、塩酸クロペラスチン等がある。鎮咳作用を目的として、ナンテンジツ等の生薬成分が配合されている場合もある。これら成分については、Ⅱ-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照のこと。
なお、これらのうちリン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデインについては、依存性がある成分であることに留意する必要がある。
(e) 痰の切れを良くする成分(去痰成分)
かぜ薬に配合される主な去痰成分としては、グアイフェネシン、グアヤコールスルホン酸カリウム、塩酸ブロムヘキシン、塩酸エチルシステイン等がある。去痰作用を目的として、シャゼンソウ、セネガ、キキョウ、セキサン、オウヒ等の生薬成分が配合されている場合もある。これら成分については、Ⅱ-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照のこと。
(f) 炎症による腫れを和らげる成分(抗炎症成分)
鼻粘膜や喉の炎症による腫れを和らげることを目的として、塩化リゾチーム、セラペプターゼ、セミアルカリプロティナーゼ、ブロメライン、グリチルリチン酸二カリウム等が配合されている場合がある。
① 塩化リゾチーム
鼻粘膜や喉の炎症を生じた組織の修復に寄与するほか、痰の粘りけを弱め、また、気道粘膜の線毛運動を促進させて痰の排出を容易にする作用を示すとされる。
まれに重篤な副作用として、ショック(アナフィラキシー)、皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死症を生じることがある。
医薬品の配合成分として用いられている塩化リゾチームは、鶏卵の卵白から抽出した蛋白質であるため、鶏卵アレルギーがある人では、塩化リゾチームを含有する医薬品によるアレルギーの既往がある人と同様、使用を避ける必要がある。
また、乳児において、塩化リゾチームを初めて摂取したときに、ショック(アナフィラキシー)が現れたとの報告があり、乳児に服用させたあとはしばらくの間、容態をよく観察されることが重要である。
② セミアルカリプロティナーゼ、ブロメライン
いずれも蛋白質分解酵素で、体内で産生される炎症物質(起炎性ポリペプタイド)を分解する作用を示す。また、炎症を生じた組織では毛細血管やリンパ管にフィブリンに類似した物質が沈着して炎症浸出物が貯留しやすくなるが、それら沈着物質を分解して浸出物の排出を促し、炎症による腫れを和らげると考えられている。
セミアルカリプロティナーゼについては、痰粘液の粘りけを弱めて痰を切れやすくする働きもあるとされる。
セミアルカリプロティナーゼ、ブロメラインとも、フィブリノゲンやフィブリンを分解する作用もあり、血液凝固異常(出血傾向)の症状がある人では、出血傾向を悪化させるおそれがあるので、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされることが望ましい。なお、血液凝固に異常がない場合でも、まれに血痰や鼻血などの副作用を生じることがある。また、肝機能に障害があると代謝や排泄が遅延して、そうした副作用が現れやすくなるため、肝臓病の診断を受けた人では、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされることが望ましい。
③ トラネキサム酸
体内での炎症物質の産生を抑えることで炎症の発生を抑え、腫れを和らげると考えられている。凝固した血液が分解されにくくする働きもあるため、血栓のある人(脳血栓、心筋梗塞、血栓性静脈炎等)、血栓を起こすおそれのある人では、生じた血栓が分解されにくくなることが考えられるので、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされることが望ましい。
④ グリチルリチン酸二カリウム
グリチルリチン酸二カリウムの作用本体であるグリチルリチン酸は、化学構造がステロイド性抗炎症成分と類似しているところにより、抗炎症作用を示すと考えられている。
グリチルリチン酸を大量に摂取すると、偽アルドステロン症を生じるおそれがある。
塩化リゾチームは内服薬だけでなく、トローチ、点眼薬、坐薬でも配合されている場合があるので留意する必要がある。
高齢者、むくみのある人、心臓病、腎臓病又は高血圧の診断を受けた人では、偽アルドステロン症を生じるリスクが高いとされており、1日最大服用量がグリチルリチン酸として40mg以上となる製品については、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談する等、使用する前にその適否を十分考慮し、使用する場合には、偽アルドステロン症の初期症状等に常に留意する等、慎重な使用がなされる必要がある。また、1日最大服用量がグリチルリチン酸として40mg以上となる製品については、高齢者、むくみのある人、心臓病、腎臓病又は高血圧の診断を受けた人であるか否かによらず、長期連用を避けることとされている。
なお、医薬品では1日摂取量がグリチルリチン酸として200mgを超えないように用量が定められているが、かぜ薬以外の医薬品にも配合されていることが少なくなく、また、甘味料として一般食品や医薬部外品などにも広く用いられるため、医薬品の販売等に従事する専門家においては、購入者等に対して、摂取されるグリチルリチン酸の総量が継続して多くならないよう注意を促すことが重要である。
グリチルリチン酸を含む生薬成分として、カンゾウが配合されている場合もある。カンゾウ、カンゾウを含有する医薬品に共通する留意点については、Ⅱ-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照のこと。
⑤ その他
発汗、抗炎症等の作用を期待して、カミツレ等の生薬成分が配合されている場合がある。
(g) 漢方処方成分等
かぜ薬に配合される漢方処方成分、又は単独でかぜの症状の緩和に用いられる漢方処方製剤の主なものとして、葛根湯、麻黄湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、小青竜湯、桂枝湯、香蘇散、半夏厚朴湯、麦門冬湯がある。
これらのうち半夏厚朴湯を除くいずれも、構成生薬としてカンゾウを含む。また、これらのうち、麻黄湯のほか、葛根湯と小青竜湯には、構成生薬としてマオウを含む。カンゾウを含有する医薬品に共通する留意点、マオウを含有する医薬品に共通する留意点については、Ⅱ-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照のこと。
かぜの症状の緩和以外にも用いられる漢方処方製剤(小柴胡湯、柴胡桂枝湯、小青竜湯、麦門冬湯)では、比較的長期間(1ヶ月位)服用することがあるが、その場合に共通する留意点については、ⅩⅣ-1(漢方処方製剤)を参照のこと。
① 葛根湯
かぜ薬、解熱鎮痛薬、アレルギー用薬(鼻炎用内服薬を含む。)等では、グリチルリチン酸二カリウム等のグリチルリチン酸を含む成分が配合されているか否かによらず、長期連用は避けることとされている。
医薬品においても、添加物(甘味料)として配合されている場合がある(ただしその場合、薬効は期待できない)。
カミツレの成分であるアズレンスルホン酸ナトリウム(アズレン)が用いられる場合もある。
かぜのひき始めにおける諸症状、頭痛、肩こり、筋肉痛、手足や肩の痛みに適すとされるが、体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)、胃腸の弱い人、発汗傾向の著しい人では、悪心、胃部不快感等の副作用が現れやすい等、不向きとされる。
まれに重篤な副作用として肝機能障害を生じることが知られている。
② 麻黄湯
かぜのひき始めで、寒気がして発熱、頭痛があり、体のふしぶしが痛い場合に適すとされるが、胃腸の弱い人、発汗傾向の著しい人では、悪心、胃部不快感、発汗過多、全身脱力感等の副作用が現れやすい等、不向きとされる。
漢方処方製剤としての麻黄湯では、マオウの含有量が多くなるため、体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)は使用を避ける必要がある。
③小柴胡湯、柴胡桂枝湯
小柴胡湯 柴胡桂枝湯は、かぜのひき始めから数日たって症状が少し長引いている状態で、疲労感があり、食欲不振、吐き気がする場合に適すとされ、また、胃腸虚弱、胃炎のような消化器症状にも用いられるが、体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)には不向きとされる。
柴胡桂枝湯は、かぜのひき始めから数日たって微熱があり、寒気や頭痛、吐き気がする等のかぜの後期の症状に適すとされ、また、腹痛を伴う胃腸炎にも用いられる。
小柴胡湯、柴胡桂枝湯とも、まれに重篤な副作用として間質性肺炎、肝機能障害を生じることが知られており、その他の副作用として、膀胱炎様症状(頻尿、排尿痛、血尿、残尿感)が現れることもある。
小柴胡湯、柴胡桂枝湯については、インターフェロン製剤で治療を受けている人では、間質性肺炎の副作用が現れるおそれが高まるため、使用を避ける必要がある。また、肝臓病自体が、間質性肺炎を起こす要因のひとつとされており、肝臓病の診断を受けた人では、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされることが望ましい。
④小青竜湯
くしゃみや鼻汁・鼻閉(鼻づまり)等の鼻炎症状、薄い水様の痰を伴う咳、気管支炎、気管支喘息等の呼吸器症状に適すとされるが、体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)、胃腸の弱い人、発汗傾向の著しい人では、悪心、胃部不快感等の副作用が現れやすい等、不向きとされる。
まれに重篤な副作用として、肝機能障害、間質性肺炎を生じることが知られている。
⑤桂枝湯、香蘇散
桂枝湯、香蘇散は、体力が衰えたときのかぜのひき始めに適すとされる。
香蘇散は、胃腸虚弱で神経質の人におけるかぜのひき始めに適するとされる。
⑥半夏厚朴湯、麦門冬湯
これら漢方処方については、Ⅱ-1(咳止め・痰を出やすくする薬)を参照のこと。
(h) 鎮静成分
解熱鎮痛成分の配合に伴い、その鎮痛作用を助けることを目的として、ブロムワレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素のような鎮静成分が配合されている場合がある。
これら鎮静成分については、依存性がある成分であることに留意する必要がある。
(i) 胃酸を中和する成分(制酸成分)
解熱鎮痛成分(生薬成分を除く。)の配合に伴い、胃腸障害を減弱させることを目的として、ケイ酸アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムゲル等の制酸成分が配合されている場合がある。なお、この場合、胃腸薬のように、胃腸症状に対する薬効を標榜ぼうすることは認められていない。これら成分については、Ⅲ-1(胃の薬)を参照のこと。
(j) カフェイン類
解熱鎮痛成分(生薬成分を除く。)の配合に伴い、その鎮痛作用を助ける目的で、カフェイン、無水カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン等が配合されている場合がある。これら成分については、Ⅰ-2(解熱鎮痛薬)を参照のこと。なお、カフェイン類が配合されているからといって、抗ヒスタミン成分や鎮静成分の作用による眠気が解消されるわけではない。
(k) その他:ビタミン成分等
かぜの時に消耗しやすいビタミン又はビタミン様物質を補給することを目的として、粘膜の健康維持・回復に重要なビタミンC(アスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム等)、ビタミンB2(リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム等)、ヘスペリジンや、疲労回復の作用を持つビタミンB1(硝酸チアミン、塩酸フルスチアミン、ビスイブチアミン、チアミンジスルフィド、ベンフォチアミン、ビスベンチアミン等)、アミノエチルスルホン酸(タウリン)等が配合されている場合がある。また、強壮作用等を期待してニンジンやチクセツニンジン等の生薬成分等が配合されている場合もある。これら成分については、ⅩⅢ(滋養強壮保健薬)を参照のこと。
3)主な副作用、相互作用、受診勧奨
【主な副作用】
かぜ薬における重篤な副作用は、解熱鎮痛成分(生薬成分を除く。)が配合されていることによるものが多い。まれに、ショック(アナフィラキシー)、皮膚粘膜眼症候群、中毒性皮膚壊死症、喘息、間質性肺炎が起こることがあり、これらは、かぜ薬(漢方処方成分、生薬成分のみから成る場合を除く。)の使用上の注意では、配合成分によらず共通の記載となっている。このほか配合成分によっては、まれに重篤な副作用として、肝機能障害、偽アルドステロン症、腎障害、無菌性髄膜炎を生じることもある。
また、その他の副作用としては、一般的な皮膚症状(発疹・発赤、掻痒感)、消化器症状(悪心・嘔吐、食欲不振)、めまい等のほか、配合成分によっては、眠気や口渇、便秘、排尿困難等が現れることがある。
【相互作用】
かぜ薬は、通常、複数の有効成分が配合されているため、他のかぜ薬や解熱鎮痛薬、鎮咳去痰薬、鼻炎用薬、アレルギー用薬、鎮静薬などが併用されると、同じ成分又は同種の作用を持つ成分が重複して、効き目が強すぎたり、副作用が起こりやすくなるおそれがある。
かぜに対する民間療法としてしばしば酒類(アルコール)の摂取がなされることがあるが、アルコールが医薬品の成分の吸収や代謝に影響を与え、肝機能障害等の副作用が起こりやすくなるおそれがあるため、かぜ薬の服用期間中は、酒類の摂取を控える必要がある。
【受診勧奨】
かぜ薬の使用は、発熱や頭痛・関節痛、くしゃみ、鼻汁・鼻閉(鼻づまり)、咽いん頭痛、咳、痰等の症状を緩和する対症療法である。一定期間又は一定回数使用して症状の改善がみられない場合は、かぜとよく似た症状が現れる別の重大な疾患、細菌感染等の併発が疑われるため、一般用医薬品によって対処することは適当でない。こうした場合、医薬品の販売等に従事する専門家においては、購入者等に対して、かぜ薬を漫然と使用を継続せずに医療機関を受診するよう促すべきである。特に、かぜ薬を使用した後、症状が悪化してきた場合には、間質性肺炎やアスピリン喘ぜん息等、かぜ薬自体の副作用による症状である可能性もある。
なお、高熱、黄色や緑色に濁った膿性の鼻汁・痰、喉(扁桃)の激しい痛みや腫れ、呼吸困難を伴う激しい咳といった症状がみられる場合は、一般用医薬品によって自己治療を図るのでなく、初めから医療機関での診療を受けることが望ましいとされている。
高齢者であっても、日頃健康な身体状態が保たれていれば、通常の成人と同様の対応で問題ない。しかし、慢性呼吸器疾患、心臓病、糖尿病等の基礎疾患がある人(高齢者に限らない)では、基礎疾患の悪化や合併症の併発を避けるため、初めから医療機関の受診が望ましい。
小児のかぜでは、急性中耳炎を併発しやすい。かぜ症状の寛解とともに自然治癒することも多いが、耳の奥の痛みや発熱が激しい場合や長引くような場合には、医療機関に連れて行くことが望ましい。
2 解熱鎮痛薬
1)痛みや発熱が起こる仕組み、解熱鎮痛薬の働き
痛みや発熱は病気そのものではなく、痛みは一般に、病気や外傷などに対する警告信号として、発熱は、細菌やウイルス等の感染等に対する生体の防御機能の一つとして引き起こされる症状である。ただし、月経痛(生理痛)などのように、必ずしも明確に病気が原因でない痛みもある。
痛みや発熱は、体内で産生されるプロスタグランジンの働きによって生じる。プロスタグランジンとはホルモンに類似した働きをする物質で、体内で様々な働きをするが、病気や外傷のときは、体内でのプロスタグランジンの産生が活発になり、体の各部位で発生した痛みが脳へ伝わる際に、その痛みの信号を増幅させる。また、脳の下部にある体温を調節する部位(温熱中枢)に作用して、通常よりも高く体温が調節されるようにするほか、体の各部位における炎症の発生にも関与する。頭痛や関節痛の症状も、プロスタグランジンの働きによって生じる。
解熱鎮痛薬は、そうした痛みや発熱の原因となっている病気や外傷自体を治すものでなく、発熱や痛みを鎮めるため使用される医薬品(内服薬)の総称であるi。痛みの感覚の増幅を防いで痛みを鎮める(鎮痛)、体温調節を正常時に近い状態に戻して熱を下げる(解熱)、又は炎症が発生している部位に作用して腫れなどの症状を和らげる(抗炎症)ことを目的として、多くの場合、体内でのプロスタグランジンの産生を抑える成分が配合される。
月経痛(生理痛)は、月経そのものが起こる過程にプロスタグランジンが関わっていることから、解熱鎮痛薬の効果・効果に含まれているが、腹痛を含む痙攣性の内臓痛については発生の仕組みが異なるため、一部の漢方処方製剤を除き、解熱鎮痛薬の効果は期待できない。
解熱鎮痛成分によって解熱、鎮痛、抗炎症のいずれの作用が中心的であるかなどの性質が異なる。なお、専ら外用剤として局所的な鎮痛や抗炎症を目的として使用される成分もあり、それらについては、Ⅹ(皮膚に用いる薬)を参照のこと。
2)代表的な配合成分等、主な副作用
(a) 解熱鎮痛成分
解熱鎮痛成分は、化学的に合成された成分と生薬成分とに大別される。
【化学的に合成された成分】
悪寒・発熱時の解熱のほか、頭痛、歯痛、抜糸後の疼痛、咽喉痛(喉の痛み)、耳痛、関節痛、神経痛、腰痛、筋肉痛、肩こり痛、打撲痛、骨折痛、捻挫痛、月経痛(生理痛)、外傷痛の鎮痛に用いられる。
発熱に対して、中枢でのプロスタグランジンの産生を抑えるほか、腎臓での水分の再吸収を促して循環血流量を増し、発汗を促す作用もあるとされる。体の各部(末梢)での痛みや炎症反応に対しては、局所のプロスタグランジンの産生を抑える働きにより、それらを鎮める効果をもたらすとされる。(アセトアミノフェンを除く。)
循環血流量の増加は心臓の負担が増すことにつながるため、心臓に障害がある場合には、その症状を悪化させるおそれがある。また、末梢でのプロスタグランジンの産生抑制は、腎臓の血流量を低下させることにつながるため、腎機能に障害があると、その症状を悪化させるおそれがある。肝臓においては、解熱鎮痛成分が代謝されて生じる物質がアレルゲンとなってアレルギー性の肝障害を誘発することがある。また、プロスタグランジンの産生を抑制する働きが逆に炎症を起こしやすくする可能性もあり、肝機能に障害がある場合には、その症状を悪化させるおそれがある。さらに成分によっては、まれに重篤な副作用として肝機能障害、腎障害を生じることがあるものもある。
プロスタグランジンには、胃酸の分泌を調節する働きや、胃腸粘膜の保護に寄与する働きもあり、これらの働きが解熱鎮痛成分によって妨げられると胃酸の分泌が増し、また、胃壁の血流量が低下することにつながる。そうした胃への影響を軽減するため、なるべく空腹時を避けて服用することとなっている場合が多いが、胃・十二指腸潰瘍があると、その症状を悪化させるおそれがある。
以上のことから、心臓病、腎臓病、肝臓病又は胃・十二指腸潰瘍の診断を受けた人では、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされることが望ましい。なお、これらの基礎疾患がない場合であっても、長期間に渡って解熱鎮痛薬が使用されると、自覚症状がないまま徐々に臓器の障害が進行するおそれがあり、長期連用は避ける必要がある。また、アルコールが解熱鎮痛成分の吸収や代謝に影響を与え、肝機能障害等の副作用が起こりやすくなるおそれがあるため、解熱鎮痛薬の服用期間中は、酒類の摂取を避けることとされている。
化学的に合成された解熱鎮痛成分に共通して、まれに重篤な副作用としてショック(アナフィラキシー)、皮膚粘膜眼症候群や中毒性皮膚壊死症、喘息を生じることがある。喘息については「アスリン喘息」としてよく知られているが、アスピリン特有の副作用ではなく、他の解熱鎮痛成分でも生じる可能性がある。
このほか、胎児への影響を考慮して、妊婦又は妊娠していると思われる女性に関して、使用上の注意「相談すること」の項で注意喚起がなされている。
① サリチル酸系解熱鎮痛成分
アスピリン(別名アセチルサリチル酸)、サザピリン、エテンザミド、サリチルアミド等を総称してサリチル酸系解熱鎮痛成分という。アスピリンは、他の解熱鎮痛成分に比べて胃腸障害が起こりやすいとされ、アスピリンアルミニウムとして胃粘膜への刺激を減弱させる等して、胃腸への影響の軽減を図っている製品もある。
サリチル酸系解熱鎮痛成分において特に留意されるべき点は、ライ症候群の発生との関連性が示唆されていることである。アスピリン(アスピリンアルミニウムを含む。)、ザザピリンについては、一般用医薬品では、小児(15歳未満)に対してはいかなる場合も使用しないこととなっている。また、エテンザミド、サリチルアミドについては、15歳未満の小児で水痘(水疱瘡)又はインフルエンザにかかっているときは使用を避ける必要がある。
アスピリン(アスピリンアルミニウムを含む。)には血液が凝固しにくくさせる作用があるため、胎児や出産への影響を考慮して、出産予定日12週間以内を避ける必要がある。なお、アスピリンは医療用医薬品では、血栓ができやすい人に対する血栓予防薬の成分としても用いられている。そうしたアスピリン製剤が処方されている場合には、一般用医薬品の解熱鎮痛薬を自己判断で使用することは避け、処方した医師又は調剤を行った薬剤師に相談がなされることが望ましい。
また、アスピリン(アスピリンアルミニウムを含む。)については、まれに重篤な副作用として肝機能障害を生じることがある。
エテンザミドについては、痛みの発生を抑える働きが中心である他の解熱鎮痛成分に比べ、痛みの伝わりを抑える働きが優位であるとされており、そうした作用の違いによる効果を期待して、他の解熱鎮痛成分と組み合わせて配合されることが多い。例えば、アセトアミノフェン、カフェイン、エテンザミドの組合せは、それぞれの頭文字から「ACE処方」と呼ばれる。
② アセトアミノフェン
主として中枢性の作用によって解熱・鎮痛をもたらすと考えられており、抗炎症作用は期待できない。その分、他の解熱鎮痛成分のような胃腸障害は比較的少ないとされ、空腹時に服用できる製品もある。
まれに重篤な副作用として肝機能障害を生じることがあり、特に、定められた用量を超えて使用した場合や、日頃から酒類(アルコール)をよく摂取する人は、肝機能障害を起こしやすい。
内服薬のほか、専ら小児の解熱に用いる製品として、アセトアミノフェンが配合された坐薬もある。一般の生活者においては、坐薬と内服薬とでは影響し合わないとの誤った認識がされている場合があり、解熱鎮痛薬やかぜ薬と併用されることのないよう注意が必要である。また、誤って坐薬を服用することのないよう留意される必要がある。
③ イブプロフェン
アスピリン等に比べて胃腸への影響が少なく、抗炎症作用も示すことから、頭痛、咽いん頭痛、月経痛(生理痛)、腰痛等に使用されることが多い。一般用医薬品では小児向けの製品はない。
体内でのプロスタグランジンの産生を抑える作用により、消化管粘膜の防御機能が低下するため、消化管に広く炎症を生じる疾患である胃・十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎又はクローン氏病の既往歴がある人では、それら疾患の再発を招くおそれがある。
まれに重篤な副作用として、肝機能障害、腎障害、無菌性髄ずい膜炎を生じることがある。全身性エリトマトーデス、混合性結合組織病の診断を受けた人では、無菌性髄膜炎を生じやすいとされており、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされることが望ましい。
④ イソプロピルアンチピリン
解熱や鎮痛の作用が比較的強いが、抗炎症作用は弱いとされ、他の解熱鎮痛成分と組み合わせて配合される。
ピリン系と呼ばれる解熱鎮痛成分である。1960年代半ばまでは、イソプロピルアンチピリン以外のピリン系解熱鎮痛成分も、一般用医薬品のかぜ薬や解熱鎮痛薬に配合されていたが、ショック等の重篤な副作用が頻発したため用いられなくなり、現在では、イソプロピルアンチピリンが一般用医薬品で唯一のピリン系解熱鎮痛成分となっている。
なお、医療用医薬品においては、現在でもイソプロピルアンチピリン以外のピリン系解熱鎮痛成分を有効成分とするものがあり、ピリン系解熱鎮痛成分によって薬疹(ピリン疹と呼ばれる。)等のアレルギー症状を起こしたことがある人では、使用を避ける必要がある。
【生薬成分】
生薬成分が解熱又は鎮痛をもたらす仕組みは、化学的に合成された成分(プロスタグランジンの産生を抑える作用)と異なるものとされており、アスピリン等の解熱鎮痛成分を避けなければならない場合にも使用できる。
① ジリュウ
ツリミミズ科のカッショクツリミミズ又はその近縁種を用いた動物性生薬で、古くから「熱さまし」として用いられてきた。ジリュウのエキスを製剤化した製品は、「感冒時の解熱」が効能・効果となっている。
② シャクヤク
ボタン科のシャクヤク又はその近縁植物の根を用いた生薬で、鎮痛鎮痙作用、鎮静作用を示し、内臓の痛みにも用いられる。同様な作用を期待して、ボタンピ(ボタン科のボタンの根皮)が配合されている場合もある。
③ ボウイ
ツヅラフジ科のオオツツラフジの蔓(つる)性の茎及び根茎を用いた生薬で、鎮痛、尿量増加(利尿)等の作用を期待して用いられる。
日本薬局方収載のボウイは、煎薬として筋肉痛、神経痛、関節痛に用いられる。
④ その他
抗炎症作用を示す生薬として、カンゾウが配合されている場合がある。カンゾウ、カンゾウを含有する医薬品に共通する留意点については、Ⅱ-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照のこと。
発汗を促して解熱を助ける作用を期待してショウキョウ、ケイヒ等が、関節痛や肩こり痛等の改善を促す作用を期待してコンドロイチン硫酸ナトリウムが、他の解熱鎮痛成分と組み合わせて配合されている場合がある。ショウキョウ、ケイヒについてはⅢ-1(胃の薬)、コンドロイチン硫酸ナトリウムについてはⅩⅢ(滋養強壮保健薬)を参照のこと。
(b) 鎮静成分
解熱鎮痛成分の鎮痛作用を助ける目的で、ブロムワレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素のような鎮静成分が配合されている場合がある。いずれも依存性がある成分であることに留意する必要がある。鎮静作用がある生薬成分として、カノコソウ等が配合されている場合もある。これら成分については、Ⅰ-3(眠気を促す薬)を参照のこと。
(c) 胃酸を中和する成分(制酸成分)
解熱鎮痛成分(生薬成分を除く。)による胃腸障害を低減させることを目的として、ケイ酸アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムゲル、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の制酸成分が配合されている場合がある。なお、この場合、胃腸薬のように、胃腸症状に対する薬効を標榜することは認められていない。これら成分については、Ⅲ-1(胃の薬)を参照のこと。
(d) 骨格筋の緊張を鎮める成分
メトカルバモールは、骨格筋の緊張に関与する中枢神経系(脊髄)の刺激反射を抑える作用を示し、いわゆる「筋肉のこり」を和らげることを目的として、骨格筋の異常緊張、痙攣、疼痛を伴う、腰痛、肩こり、筋肉痛、関節痛、神経痛、打撲、捻挫等に用いられる。
鎮静作用を示し、副作用として眠気、めまい、ふらつきが現れることがあるため、服用後は乗物又は機械類の運転操作を避ける必要がある。また、鎮静作用を示す成分が配合された他の医薬品の併用についても避けることとされている。
このほか、消化器系の副作用として、悪心(吐き気)・嘔吐、食欲不振、胃部不快感が現れることがある。
(e) カフェイン類
解熱鎮痛成分の鎮痛作用を高める効果を期待して、また、中枢神経系を刺激して頭をすっきりさせたり、疲労感・倦けん怠感を和らげることを目的として、カフェイン、無水カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン等が配合されている場合がある。なお、カフェイン類が配合されていても、鎮静成分の作用による眠気が解消されるわけではない。カフェインの働き、主な副作用等については、Ⅰ-4(眠気を防ぐ薬)を参照のこと。
(f) ビタミン成分
発熱等によって消耗されやすいビタミンの補給を目的として、ビタミンB1(塩酸チアミン、硝酸チアミン、ジベンゾイルチアミン、チアミンジスルフィド、ビスベンチアミン、塩酸ジセチアミン等)、ビタミンB2(リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム等)、ビタミンC(アスコルビン酸、アスコルビン酸カルシウム等)等が配合されている場合がある。これら成分については、ⅩⅢ(滋養強壮保健薬)を参照のこと。
◇漢方処方製剤
鎮痛の目的で用いられる漢方処方製剤としては、芍薬甘草湯、桂枝加朮附湯、桂枝加苓朮附湯、よく苡仁湯、麻杏よく甘湯、疎経活血湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、呉茱萸湯、釣藤散、等がある。
これらのうち呉茱萸湯以外は、いずれも構成生薬としてカンゾウを含む。カンゾウを含有する医薬品に共通する留意点については、Ⅱ-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照のこと。また、これらのうち芍薬甘草湯以外は、比較的長期間(1ヶ月位)服用されることがあり、その場合に共通する留意点については、ⅩⅣ-1(漢方処方製剤)を参照のこと。
(a) 芍薬甘草湯
下肢の痙攣性疼痛(いわゆる「足がつる」症状やこむらがえり)、急な腹痛や胃痙攣の痛み等のような、急激に起こる筋肉の痙攣を伴う疼痛に適すとされる。ただし、症状があるときのみの服用にとどめ、連用を避けることとされている。
まれに重篤な副作用として、肝機能障害のほか、鬱血性心不全や心室頻脈を生じることが知られており、心臓病の診断を受けた人では使用を避ける必要がある。
(b) 桂枝加朮附湯、桂枝加苓朮附湯
いずれも関節痛、神経痛に適すとされるが、のぼせが強く赤ら顔で体力が充実している人では、動悸、のぼせ、ほてり等の副作用が現れやすい等、不向きとされる。
(c) よく苡仁湯、麻杏よく甘湯
よく苡仁湯については、関節痛、筋肉痛、麻杏よく甘湯については、関節痛、神経痛、筋肉痛に適すとされるが、どちらも体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)、胃腸の弱い人、発汗傾向の著しい人では、悪心・嘔吐、胃部不快感等の副作用が現れやすい等、不向きとされる。
どちらも構成生薬としてマオウを含む。マオウ、マオウを含有する医薬品に共通する留意点については、Ⅱ-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照のこと。
(d) 疎経活血湯
関節痛、神経痛、腰痛、筋肉痛に適すとされるが、胃腸が弱く下痢しやすい人では、消化器系の副作用(食欲不振、胃部不快感等)が現れやすい等、不向きとされる。
(e) 当帰四逆加呉茱萸生姜湯
手足の冷えを感じ、下肢が冷えると下肢又は下腹部が痛くなりやすい人における、腰痛、下腹部痛、頭痛、しもやけに適すとされるが、胃腸の弱い人では不向きとされる。
(f) 釣藤散(チョウトウサン)
中年以降の人又は血圧が高めの人における慢性の頭痛に適すとされるが、胃腸虚弱で冷え性の人では、消化器系の副作用(食欲不振、胃部不快感等)が現れやすい等、不向きとされる。
(g) 呉茱萸湯(ゴシュユトウ)
みぞおちが膨満して手足が冷えやすい人における、頭痛及び頭痛に伴う吐き気、しゃっくりに適すとされる。
3)相互作用、受診勧奨
【相互作用】
一般用医薬品の解熱鎮痛薬は、複数の有効成分が配合されている製品が多く、他の解熱鎮痛薬やかぜ薬、鎮静薬、外用消炎鎮痛薬(一般用医薬品に限らない。)等が併用されると、同じ成分又は同種の作用を持つ成分が重複して、効き目が強すぎたり、副作用が起こりやすくなるおそれがある。一般の生活者においては、「痛み止め」と「熱さまし」は影響し合わないと誤って認識されている場合もあり、医薬品の販売等に従事する専門家において適宜注意を促していくことが重要である。
解熱鎮痛成分と酒類(アルコール)との相互作用については、アルコールの作用によって胃粘膜が荒れるため、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、イソプロピルアンチピリン等による胃腸障害が増強されることがある。また、アセトアミノフェンによる肝機能障害が起こりやすくなる。ブロムワレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素のような鎮静成分が配合されている場合の留意点についてはⅠ-3(眠気を促す薬)、カフェイン類が配合されている場合の留意点についてはⅠ-4(眠気を防ぐ薬)を参照のこと。
【受診勧奨等】
解熱鎮痛薬の使用は、痛みや発熱を一時的に和らげる対症療法であって、それらの原因を根本的に解消するものではない。以下のような場合は、一般用医薬品によって自己治療を図るのでなく、医療機関を受診することが望ましい。なお、筋肉痛、肩こり痛、打撲痛、骨折痛、捻挫痛、外傷痛に関する受診勧奨についてはⅩ(皮膚に用いる薬)、歯痛に関する受診勧奨についてはⅩⅠ-1(歯痛・歯槽膿漏用薬)も参照のこと。
発熱については、激しい腹痛や下痢などの消化器症状、息苦しいなどの呼吸器症状、排尿時の不快感等の泌尿器症状、又は発疹や痒みなどの皮膚症状等を伴っている場合や、発熱が1週間以上続いているような場合には、感染症やその他の重大な病気である可能性があり、自己判断で安易に熱を下げることで、かえって発熱の原因である病気をこじらせるおそれがある。なお、通常、体温が38℃以下であればひきつけや著しい体力消耗等のおそれはなく、平熱になるまで解熱鎮痛薬を使用する必要はない。発汗に伴って体から水分や電解質が失われるので、吸収の良いスポーツドリンク等でそれらを補給することも重要である。
関節痛については、歩くとき又は歩いたあと膝ひざ関節が痛む、関節が腫れて強い熱感がある、又は、起床したときに関節のこわばりがあるような場合は、関節リウマチ、痛風、変形性関節炎等の病気の可能性がある。
月経痛(生理痛)については、年月の経過に伴って次第に増悪していくような場合には、子宮内膜症等の病気の可能性がある。
頭痛については、頭痛が頻繁に現れて、24時間以上続く場合や、一般用医薬品を使用しても痛みを抑えられない場合は、自己治療によって対処できる範囲を超えている。特に、頭痛が次第に増してきて耐え難いような場合や、これまで経験したことがない激しい突然の頭痛、手足のしびれや意識障害などの精神神経系の異常を伴う頭痛が現れたときには、くも膜下出血等、生命に関わる重大な病気である可能性がある。
なお、頭痛は、頭痛が起こるのでないかという不安感も含め、心理的な影響も大きいとされる。解熱鎮痛薬は、頭痛の症状が軽いうちに服用するのが効果的ともいわれるが、症状が現れないうちに予防的に使用することは適切でなく、解熱鎮痛薬を連用することによって、かえって頭痛が常態化することがある。また、解熱鎮痛薬を使用したときは症状が治まるが、しばらくすると頭痛が再発し、解熱鎮痛薬が常時手放せないような場合には、依存が形成されている可能性もある。医薬品の販売に従事する専門家においては、家族や周囲の人の理解や協力も含め、医薬品の適正使用、安全使用の観点からの配慮がなされることが重要である。
3 眠気を促す薬
一般的に、はっきりした病気が原因でなくても、日常生活における人間関係のストレスや生活環境の変化等の様々な要因によって、自律神経系のバランスが乱れ、寝つきが悪い、眠りが浅い、いらいら感、緊張感、興奮感、精神不安といった症状を生じることがある。また、それらの症状のため十分な休息が取れず、疲労倦怠感、寝不足感、頭重等の症状を伴う場合もある。
催眠鎮静薬は、そうした症状を生じたとき、眠気を促したり、精神の昂りを鎮めるため使用される医薬品である。
1)代表的な配合成分等、主な副作用
(a) 抗ヒスタミン成分
生体内の刺激伝達物質であるヒスタミンは、脳の下部にある睡眠・覚醒に大きく関与する部位において、神経細胞を刺激して覚醒の維持・調節を行う働きを担っている。脳内におけるヒスタミンによる刺激の発生が抑えられると眠気が促される。塩酸ジフェンヒドラミンは、抗ヒスタミン成分の中でも特にそうした中枢作用が強いとされる。
抗ヒスタミン成分を主薬とする催眠鎮静薬は、睡眠改善薬として、一時的な睡眠障害(寝つきが悪い、眠りが浅い)の緩和に用いられるものであり、慢性的に不眠症状がある人や、医療機関において不眠症の診断を受けている人を対象としたものではない。
妊娠中にしばしば生じる睡眠障害については、ホルモンのバランスや体型の変化等によるものであり、睡眠改善薬の適用対象となる症状ではない。妊婦又は妊娠していると思われる女性では、睡眠改善薬の使用を避けることされている。
まれに眠気とは正反対の作用を生じて、神経過敏や興奮などが現れることがある。小児ではそうした副作用が起きやすく、15歳未満の小児では使用を避ける必要がある。
抗ヒスタミン成分を含有する内服薬は、服用後、乗物又は機械類の運転操作を避ける必要があるが、睡眠改善薬の場合、目が覚めたあとも、注意力の低下や寝ぼけ様症状、判断力の低下等の一時的な意識障害、めまい、倦怠感を起こすことがある。翌日まで眠気やだるさを感じるときには、それらの症状が消失するまで乗物又は機械類の運転操作を避ける必要がある。
その他、抗ヒスタミン成分に共通する副作用等については、Ⅶ(アレルギー用薬)を参照のこと。
(b) ブロムワレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素
いずれも脳の興奮を抑え、痛み等を感じる感覚を鈍くする作用を示す。催眠鎮静薬よりも、かぜ薬や解熱鎮痛薬などに補助成分として配合されることが多い。
少量でも眠気を催しやすく、重大な事故につながるおそれがあるため、これらの成分が配合された医薬品を使用した後は、乗物又は機械類の運転操作を避ける必要がある。
また、依存性がある成分でもあり、反復して摂取すると依存を生じるおそれがある。これらの成分が配合された製品は、医薬品本来の目的から逸脱した使用がなされることもある。
不眠や不安の症状は鬱病に起因して生じる場合もあるが、鬱病においてはときに自殺行動を起こすことがあり、ブロムワレリル尿素の大量摂取による急性中毒は、我が国における代表的な薬物中毒の一つとなっている。
なお、ブロムワレリル尿素については、胎児障害の可能性があるため、妊婦又は妊娠していると思われる女性は使用を避けることが望ましい。
(c) 生薬成分
神経の興奮・緊張を和らげる作用を期待してチョウトウコウ、サンソウニン、カノコソウ、チャボトケイソウ、ホップ等の生薬成分を組み合わせて配合されている製品もある。生薬成分のみからなる鎮静薬であっても、複数の鎮静薬の併用や、長期連用は避ける必要がある。
① チョウトウコウ:アカネ科のカギカズラ又はトウカギカズラの鉤かぎ状の棘とげ
② サンソウニン:クロウメモドキ科のサネブトナツメの種子
③ カノコソウ(別名キッソウコン):オミナエシ科のカノコソウの根茎及び根
④ チャボトケイソウ(別名パッシフローラ):南米原産のトケイソウ科の植物で、その開花期における茎及び葉が薬用部位となる。
⑤ ホップ:ヨーロッパ南部から西アジアを原産とするアサ科の植物で、松かさ状の果穂が薬用部位となる。
◇漢方処方製剤
神経質、精神不安、不眠等の症状の改善を目的として用いられる漢方処方製剤としては、酸棗仁湯(サンソウニントウ)、加味帰脾湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯等がある。
これらの漢方処方製剤は、症状の原因となる体質の改善を主眼としているため、いずれも比較的長期間(1ヶ月位)服用されることがある。
その場合に共通する留意点には、ⅩⅣ-1(漢方処方製剤)を参照。
これらのうち、柴胡加竜骨牡蛎湯を除くいずれも、構成生薬としてカンゾウを含む。
カンゾウを含有する医薬品に共通する留意点については、Ⅱ-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照のこと。
抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯については、小児の疳(カン)や夜泣きにも用いられるが、その場合の留意点等については、Ⅰ-6(小児の疳を適応症とする生薬製剤・漢方処方製剤)を参照のこと。
(a) 酸棗仁湯
心身が疲れ弱って眠れない人に適すとされるが、胃腸が弱い人、下痢又は下痢傾向のある人では、消化器系の副作用(悪心、食欲不振、胃部不快感、下痢等)が現れやすい等、不向きとされる。
1週間位服用して症状の改善がみられない場合には、漫然と服用を継続せず、医療機関を受診することが望ましい。
(b) 加味帰脾湯
虚弱体質で血色の悪い人における、不眠症、精神不安、神経症、貧血に適すとされる。
(c) 抑肝散、抑肝散加陳皮半夏
いずれも虚弱体質で神経がたかぶる人における神経症、不眠症に適すとされるが、胃腸の弱い人では不向きとされる。
(d) 柴胡加竜骨牡蛎湯
精神不安があり、動悸や不眠などを伴う人における、高血圧の随伴症状(動悸、不安、不眠)、神経症、更年期神経症に適すとされるが、体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)、胃腸が弱く下痢しやすい人、瀉下薬(下剤)を服用している人では、腹痛、激しい腹痛を伴う下痢の副作用が現れやすい等、不向きとされている。
構成生薬としてダイオウを含む。構成生薬としてダイオウを含む漢方処方に共通する留意点に関するについては、Ⅲ-2(腸の薬)を参照のこと。
重篤な副作用として、まれに肝機能障害、間質性肺炎を生じることが知られている。
(e) 桂枝加竜骨牡蛎湯
虚弱体質で疲れやすく、興奮しやすい人における、神経質、不眠症、小児夜泣き、小児夜尿症、眼精疲労に適すとされる。
2)相互作用、受診勧奨等
【相互作用】
塩酸ジフェンヒドラミン、ブロムワレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素は、催眠鎮静薬以外の一般用医薬品、医療用医薬品にも配合されていることがあり、これらの成分を含有する医薬品や、他の催眠鎮静薬が併用されると、効き目や副作用が増強されるおそれがある。また、医療機関で不眠症(睡眠障害)、不安症、神経症等の診断がなされ、治療(薬物治療以外の治療を含む)を受けている場合には、一般用医薬品の催眠鎮静薬を自己判断で使用すると、その治療を妨げるおそれがあり、使用を避ける必要がある。
一般に寝つきが悪いときの対処として、アルコールの摂取(いわゆる「寝酒」)がなされることがあるが、塩酸ジフェンヒドラミン、ブロムワレリル尿素又はアリルイソプロピルアセチル尿素を含有する催眠鎮静薬を服用すると、その効き目や副作用が増強されるおそれがあるため、服用する場合は飲酒を避ける必要がある。なお、生薬成分のみからなる鎮静薬や漢方処方製剤については、飲酒を避けることとはなっていないが、アルコールが睡眠の質を低下させ、催眠鎮静薬の効果を妨げることがある。
カノコソウ、サンソウニン、チャボトケイソウ、ホップ等は、医薬品的な効能効果が標榜又は暗示されていなければ食品(ハーブ)として流通可能であるが、それら成分又は他の鎮静作用があるとされるハーブ(セントジョーンズワート等)を含む食品を併せて摂取すると、医薬品の効き目や副作用を増強させることがある。
【受診勧奨等】
不眠に関して、基本的に、一般用医薬品を使用して対処することが可能であるのは、特段の基礎疾患がない人で、ストレスや疲労、又は時差ぼけ等の睡眠リズムの乱れによる一時的な不眠、寝つきが悪い場合である。寝ようとして床に入ってもなかなか寝つけない(入眠障害)、睡眠時間を十分取ったつもりでも、ぐっすり眠った感じがしない(熟眠障害)、睡眠時間中、何度も目が覚めてしまい、再び寝つくのが難しい(中途覚醒)、早く目が覚めてしまい、まだ眠りたいのに寝つけない(早朝覚醒)といった症状が慢性的に続いているような場合には、鬱病等の精神神経疾患や、身体疾患に起因する不眠、又は催眠鎮静薬の使いすぎによる不眠等の可能性もあるため、医療機関の受診が望ましい。
なお、ブロムワレリル尿素等の鎮静成分を多量摂取した場合においては、通常の使用状況から著しく異なり、高度な専門的判断を要する。応急処置等について関係機関の専門家に相談する、昏睡や呼吸抑制が起きているようであれば、直ちに救命救急が可能な医療機関に連れて行く等の対応がとられるよう説明がなされるべきである。
また、ブロムワレリル尿素等の反復摂取によって依存を生じている場合は、自己努力のみで依存からの離脱を図ることは困難で、薬物依存は医療機関での診療が必要な病気である。医薬品を本来の目的以外の意図で使用する不適正な使用、又はその疑いがある場合における対応については、不適正な使用と有害事象を参照のこと。
4 眠気を防ぐ薬
睡眠は、健康維持に欠かせないものである。しかし、ある程度の睡眠を取っていても、食事のあとや単調な作業が続くときなど、脳の緊張が低下して眠気や倦けん怠感(だるさ)が生じることがある。眠気防止薬は、その主たる有効成分としてカフェイン(無水カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン等を含む。)が配合され、眠気や倦怠感を除去することを目的とする医薬品である。
1)カフェインの働き、主な副作用
カフェインは、脳に軽い興奮状態を引き起こす作用を示し、眠気や倦怠感を一時的に抑える効果が期待される。脳が過剰に興奮すると、副作用として振戦(震え)、めまい、不安、不眠、頭痛を生じることがある。
眠気防止薬の薬効に関連しない作用として、カフェインは、腎臓での水分の再吸収を抑制するとともに、膀胱括約筋を弛緩させる働きがあり、尿量の増加(利尿)をもたらす。
安全使用の観点から留意すべき作用としては、胃液の分泌を亢進させる作用があり、副作用として胃腸障害(食欲不振、悪心・嘔おう吐)が現れることがある。胃酸過多の症状のある人、胃潰瘍の診断を受けた人は、服用を避ける必要がある。また、心筋を興奮させる作用もあり、副作用として動悸が現れることがある。心臓病の診断を受けた人は、服用を避ける必要がある。
さらに、カフェインには、作用は弱いものの、反復して摂取すると習慣になりやすい性質があることも知られており、コーヒーやお茶などの食品として摂取する場合に比べて、医薬品では、カフェインが凝縮された状態で容易に摂取可能であることから、「短期間の服用にとどめ、連用しないこと」と注意喚起がなされている。
妊娠中の眠気防止薬の使用が胎児に影響を及ぼすかどうかは明らかになっていないが、吸収されて循環血液中に移行したカフェインの一部は、胎盤関門を通過して胎児に到達することが知られており、胎児の心拍数を増加させる可能性がある。また、摂取されたカフェインの一部は乳汁中にも移行するが、乳児では肝臓が未発達で、摂取されたカフェインが代謝されるのにより多くの時間を要すxxviiため、母乳を与える女性が大量のカフェインを摂取したり、連用した場合には、乳児の体内にカフェインの蓄積を生じ、頻脈、不眠等を引き起こす可能性がある。授乳期間中は食品等に含まれるカフェインと併せて、カフェインの総摂取量が継続して多くならないよう留意されることが望ましい。
なお、眠気を抑える成分ではないが、眠気による倦けん怠感を和らげる補助成分として、ビタミンB1(硝酸チアミン、塩酸チアミン等)、ビタミンB2(リン酸リボフラビンナトリウム等)、ビタミンB5(パントテン酸カルシウム等)、ビタミンB6(塩酸ピリドキシン等)、ビタミンB12(シアノコバラミン等)、ニコチン酸アミド、アミノエチルスルホン酸(タウリン)等が配合されている場合がある。これら成分については、ⅩⅢ(滋養強壮保健薬)を参照のこと。
2)相互作用、休養の勧奨等
【相互作用】
眠気防止薬におけるカフェインの1回摂取量はカフェインとして200mg、1日摂取量では500mgが上限とされている。カフェインは、他の医薬品(かぜ薬、解熱鎮痛薬、乗物酔い防止薬、滋養強壮保健薬等)や医薬部外品(ビタミン含有保健剤等)、食品(お茶、コーヒー等)にも含まれている。それらが眠気防止薬と同時に摂取されるとカフェインが過量となり、中枢神経系や循環器系等への作用が強く現れるおそれがある。
なお、かぜ薬やアレルギー用薬などを使用したことによる眠気を抑えるために、眠気防止薬を使用するのは適切でない。眠気が生じると不都合なときには、眠気を催す成分を含まない医薬品が選択されるべきであり、また、それらの医薬品には配合成分としてカフェインが含まれている場合も多く、重複摂取を避ける観点からも併用を避ける必要がある。
【休養の勧奨等】
眠気防止薬は、一時的に緊張を要するときに、眠気や倦怠感を除去する目的で服用されるものであり、疲労を解消したり、睡眠が不要になるというものではない。睡眠不足による疲労には、早めに睡眠を摂ることが望ましい。特に内服液剤では、その製剤的な特徴(第2章Ⅱ-3)(剤型ごとの違い、適切な使用方法)参照。)から、本来の目的以外の意図で服用する不適正な使用がなされることがある。
細菌やウイルスなどに感染したときに生じる眠気は、発熱と同様、生体防御の重要な一端を担っている生理的反応であり(睡眠によって免疫機能が高まるとされる。)、そのようなときに眠気防止薬を使用して睡眠を妨げると、病気の治癒を遅らせるおそれがある。
十分な睡眠を摂っていても、眠気防止薬の使用では抑えられない眠気や倦けん怠感(だるさ)が続くような場合には、神経、心臓、肺、肝臓等の重大な病気を示唆している可能性がある。また、睡眠時無呼吸症候群、重度の不安症や鬱病、ナルコレプシー等の症状としての眠気も考えられるため、医療機関を受診することが望ましい。
成長ホルモンは生体を構築したり修復するのに重要なホルモンであるが、成長ホルモンの分泌を促す脳ホルモンは、ある種の睡眠物質と同時に分泌され、睡眠を促進することが知られている。すなわち、定期的な睡眠によって、生体を正常な状態に維持したり、成長が行われる。特に、成長期にある小児の発育には睡眠が重要であり、眠気防止薬に小児向けの製品はない。
眠気防止薬が小・中学生の試験勉強に効果があると誤解され、誤用事故を起こした事例も知られており、15歳未満の小児に使用されることのないよう注意が必要である。
5 鎮暈薬(乗物酔い防止薬)
めまい(眩暈)は、体の平衡を感知して、保持する機能(平衡機能)に異常が生じて起こる症状であり、内耳にある平衡器官の障害や、中枢神経系の障害など、様々な要因により引き起こされる。乗物酔い防止薬は、乗物酔い(動揺病)によるめまい、吐きけ、頭痛を防止し、緩和することを目的とする医薬品である。
1)代表的な配合成分、主な副作用
抗めまい成分、抗ヒスタミン成分、抗コリン成分及び鎮静成分には、いずれも眠気を促す作用がある。抗コリン成分では、眠気を促すほかに、散瞳による目のかすみや異常なまぶしさを引き起こすことがある。乗物の運転操作をするときは、乗物酔い防止薬の使用を控える必要がある。
なお、乗物酔い防止薬には、主として吐きけを抑えることを目的とした成分も配合されるが、つわりに伴う吐き気への対処として使用することは適当でない。
(a) 抗めまい成分
塩酸ジフェニドールは、内耳にある前庭と脳を結ぶ神経(前庭神経)の調節作用のほか、内耳への血流を改善する作用を示す。抗ヒスタミン成分と共通する化学構造や薬理作用を持つが、抗ヒスタミン成分としてよりも専ら抗めまい成分として使用される。
副作用として、抗ヒスタミン成分や抗コリン成分と同様な頭痛、排尿困難、眠気、散瞳による異常な眩まぶしさ、口渇のほか、浮動感や不安定感が現れることがある。排尿困難の症状がある人や緑内障の診断を受けた人では、その症状を悪化させるおそれがあり、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされることが望ましい。
(b) 抗ヒスタミン成分
抗ヒスタミン成分は、延髄にある嘔吐中枢への刺激や内耳の前庭における自律神経反射を抑える作用を示す。また、抗ヒスタミン成分は抗コリン作用を示すものが多いが、抗コリン作用も乗物酔いによるめまい、吐き気等の防止・緩和に寄与すると考えられている。
ジメンヒドリナートは、テオクル酸ジフェンヒドラミンの一般名で、専ら乗物酔い防止薬に配合される抗ヒスタミン成分である。
塩酸メクリジンは、他の抗ヒスタミン成分と比べて作用が現れるのが遅く持続時間が長く、これも専ら乗物酔い防止薬に配合されている。
テオクル酸プロメタジン等のプロメタジンを含む成分については、外国において、乳児突然死症候群や乳児睡眠時無呼吸発作のような致命的な呼吸抑制を生じたとの報告があるため、15歳未満の小児では使用を避ける必要がある。
このほか、乗物酔い防止に配合される抗ヒスタミン成分としては、マレイン酸クロルフェニラミン、サリチル酸ジフェンヒドラミン等がある。抗ヒスタミン成分に共通する副作用等については、Ⅶ(アレルギー用薬)を参照のこと。
(c) 抗コリン成分
抗コリン作用を有する成分は、中枢に作用して自律神経系の混乱を軽減させるとともに、末梢では消化管の緊張を低下させる作用を示す。抗コリン成分に共通する副作用等については、Ⅲ-3(胃腸鎮痛鎮痙けい薬)を参照のこと。
臭化水素酸スコポラミンは、乗物酔い防止に古くから用いられている抗コリン成分で、消化管からよく吸収され、他の抗コリン成分と比べて脳内に移行しやすいとされるが、肝臓で速やかに代謝されてしまうため、抗ヒスタミン成分等と比べて作用の持続時間は短い。スコポラミンを含む成分としてロートエキスが配合されている場合もある。
(d) 鎮静成分
乗物酔いの発現には不安や緊張などの心理的な要因による影響も大きく、それらを和らげることを目的として、ブロムワレリル尿素、アリルイソプロピルアセチル尿素のような鎮静成分が配合されている場合がある。鎮静成分に共通する副作用等についてはⅠ-3(眠気を促す薬)を参照のこと。
(e) 中枢神経系を興奮させる成分(キサンチン系成分)
脳に軽い興奮を起こさせて平衡感覚の混乱によるめまいを軽減させることを目的として、カフェイン(無水カフェイン、クエン酸カフェイン等を含む。)やジプロフィリンなどのキサンチン系と呼ばれる成分が配合されている場合がある。カフェインには、乗物酔いに伴う頭痛を和らげる作用も期待される。
なお、カフェインが配合されているからといって、抗めまい成分、抗ヒスタミン成分、抗コリン成分又は鎮静成分の作用による眠気が解消されるわけではない。カフェインについては、Ⅰ-4(眠気を防ぐ薬)を参照のこと。
カフェイン以外のキサンチン系成分については、Ⅱ-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照のこと。
(f) 局所麻酔成分
胃粘膜への麻酔作用によって嘔吐刺激を和らげ、乗物酔いに伴う吐き気を抑えることを目的として、アミノ安息香酸エチルのような局所麻酔成分が配合されている場合がある。
アミノ安息香酸エチルについては、Ⅲ-3(胃腸鎮痛鎮痙薬)を参照こと。乗物酔い防止薬においても、アミノ安息香酸エチルが配合されている場合には、6歳未満の小児への使用は避ける必要がある。
(g) その他
吐き気の防止に働くことを期待して、塩酸ピリドキシン、ニコチン酸アミド、リボフラビン等のビタミン成分が補助的に配合されている場合がある。これら成分については、ⅩⅢ(滋養強壮保健薬)を参照こと。
2)相互作用、受診勧奨等
【相互作用】
抗ヒスタミン成分、抗コリン成分、鎮静成分、カフェイン類等の配合成分が重複して、鎮静作用や副作用が強く現れるおそれがあるので、かぜ薬、解熱鎮痛薬、催眠鎮静薬、鎮咳去痰薬、胃腸鎮痛鎮痙薬、アレルギー用薬(鼻炎用内服薬を含む。)等との併用は避ける必要がある。
カフェイン類が配合されている場合の留意点についてはⅠ-4(眠気を防ぐ薬)を参照のこと。
【受診勧奨等】
3歳未満では自律神経系が未発達であるため、乗物酔いが起こることはほとんどないとされている。乗物酔い防止薬に3歳未満の乳幼児向けの製品はなく、そうした乳幼児が乗物で移動中にむずがるような場合には、気圧変化による耳の痛みなどの他の要因が考慮されるべきであり、乗物酔い防止薬を安易に使用することのないよう注意される必要がある。
乗物酔いに伴う一時的な症状としてでなく、日常においてめまいが度々生じる場合には、基本的に医療機関を受診することが望ましい。その場合、動悸や立ちくらみ、低血圧などによるふらつきは、平衡機能の障害によるめまいとは区別される必要がある。高齢者は、平衡機能の衰えによってめまいを起こしやすく、聴覚障害(難聴、耳鳴り等)に伴って現れることも多い。
6 小児の疳を適応症とする生薬製剤・漢方処方製剤(小児鎮静薬)
小児では、特段身体的な問題がなく、基本的な欲求が満たされていても、夜泣き、ひきつけ、疳の虫等の症状が現れることがあり、他者との関わり等への不安や興奮から生じる情緒不安定・神経過敏が要因のひとつといわれ、また、睡眠のリズムが形成されるまでの発達の一過程とも考えられている。授乳後にげっぷが出なかったり、泣く際に空気を飲み込んでしまうなどして、消化管に過剰な空気が入ることと関連づけられることもある。乳児は食道と胃を隔てている括約筋が未発達で、胃の内容物をしっかり保っておくことができず、胃食道逆流に起因するむずがり、夜泣き、乳吐きなどを起こすことがある。
小児鎮静薬は、それらの症状を鎮めるほか、小児における虚弱体質、消化不良などの改善を目的とする医薬品(生薬製剤・漢方処方製剤)である。症状の原因となる体質の改善を主眼としているものが多く、比較的長期間(1ヶ月位)継続して服用されることがある。その場合に共通する留意点については、ⅩⅣ(漢方処方製剤・生薬製剤)を参照のこと。
なお、身体的な問題がなく生じる夜泣き、ひきつけ、疳の虫等の症状については、成長に伴って自然に治まるのが通常である。発達段階の一時的な症状と保護者が達観することも重要であり、小児鎮静薬を保護者側の安眠等を図ることを優先して使用することは適当でない。小児(特に乳幼児)への医薬品の使用に関する留意点については、「小児、高齢者などへの配慮」を参照のこと。
1)代表的な配合生薬等、主な副作用
小児の疳は、乾という意味もあるとも言われ、痩せて血が少ないことから生じると考えられており、鎮静作用のほか、血液の循環を促す作用があるとされる生薬成分を中心に配合されている。鎮静と中枢刺激のように相反する作用を期待する生薬成分が配合されている場合もあるが、身体の状態によってそれらに対する反応が異なり、総じて効果がもたらされると考えられている。
いずれも古くから伝統的に用いられているものであるが、購入者等が、「作用が穏やかで小さな子供に使っても副作用が無い」などといった安易な考えで使用することを避け、適切な医薬品を選択することができるよう、積極的な情報提供を行うことに努める必要がある。
(a) ゴオウ、ジャコウ
緊張や興奮を鎮め、また、血液の循環を促す作用等を期待して用いられる。これら生薬成分については、Ⅵ-1(強心薬)を参照のこと。
(b) レイヨウカク
ウシ科のサイガレイヨウの若い角を用いた生薬で、緊張や興奮を鎮める作用等を期待して用いられる。
(c) ジンコウ
ジンチョウゲ科のジンコウの黒褐色の樹脂を含む木材を乾燥加工した生薬で、鎮静、健胃、強壮などの作用を期待して用いられる。
(d) その他
リュウノウ(ボルネオールを含む。)、動物胆(ユウタンを含む。)、チョウジ、サフラン、ニンジン、カンゾウ等が配合されている場合がある。
リュウノウ、ボルネオールについてはⅥ-1(強心薬)、動物胆、ユウタン、チョウジについてはⅢ-1(胃の薬)、サフランについてはⅥ(婦人薬)、ニンジンについてはⅩⅢ(滋養強壮保健薬)を、それぞれ参照のこと。
カンゾウについては、小児の疳を適応症とする生薬製剤では主として健胃作用を期待して用いられ、配合量は比較的少ないことが多いが、他の医薬品等から摂取されるグリチルリチン酸も含め、その総量が継続して多くならないよう注意されることが望ましい。カンゾウを含有する医薬品に共通する留意点については、Ⅱ-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照のこと。
◇ 漢方処方製剤
漢方処方製剤は、用法用量において適用年齢の下限が設けられていない場合にあっても、生後3ヶ月未満の乳児には使用しないこととなっている。
小児の疳を適応症とする主な漢方処方製剤としては、柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏のほか、小建中湯がある。
なお、乳幼児に使用する場合、体格の個人差から体重当たりのグリチルリチン酸の摂取量が多くなることがあるので留意される必要がある。
柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏を小児の夜泣きに用いる場合、1週間位服用しても症状の改善がみられないときには、いったん服用を中止して、専門家に相談する等、その漢方処方製剤の使用が適しているかどうか見直すことが望ましい。
【小建中湯】
体質虚弱で疲労しやすく、血色がすぐれない人における、腹痛、動悸、手足のほてり、冷え、頻尿及び多尿などのいずれかを伴う、小児虚弱体質、疲労倦怠、神経質、慢性胃腸炎、小児夜尿症、夜泣きに適すとされる。
構成生薬としてカンゾウを含むが、小建中湯は比較的長期間(1ヶ月位)服用することがあるので、特に留意される必要がある。
2)相互作用、受診勧奨
【相互作用】
漢方処方製剤、生薬成分が配合された医薬品における相互作用に関する一般的な事項について、ⅩⅣ(漢方処方製剤・生薬製剤)を参照のこと。
【受診勧奨】
乳幼児は状態が急変しやすく、容態が変化した場合に、自分の体調を適切に伝えることが難しいため、保護者等が状態をよく観察し、医薬品の使用の可否を見極めることが重要である。小児鎮静薬を一定期間又は一定回数服用させても症状の改善がみられない場合は、その他の原因(例えば、食事アレルギーやウイルス性胃腸炎など)に起因する可能性も考えられるので、漫然と使用を継続せず医療機関を受診させることが望ましい。
乳幼児ではしばしば一過性の下痢や発熱を起こすことがあるが、激しい下痢や高熱があるような場合には、脱水症状につながるおそれがあり、医師の診療を受けさせる必要がある。吐きだしたものが緑色をしていたり、血が混じっているような場合、又は、吐き出すときに咳き込んだり、息を詰まらせたりするような場合も、早めに医師の診療を受けさせる必要がある。
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