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XIII 滋養強壮保健薬
1)医薬品として扱われる保健薬
2)ビタミン、カルシウム、アミノ酸等の働き、主な副作用
3)代表的な配合生薬等、主な副作用
4)相互作用、受診勧奨
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ⅩⅢ 滋養強壮保健薬
1)医薬品として扱われる保健薬
滋養強壮保健薬は、体調の不調を生じやすい状態や体質の改善、特定の栄養素の不足による症状の改善又は予防等を目的として、ビタミン成分、カルシウム、アミノ酸、生薬成分等が配合された医薬品である。
同様にビタミン等の補給を目的とするものとして医薬部外品の保健薬があるが、それらの効能・効果の範囲は、滋養強壮、虚弱体質の改善、病中・病後の栄養補給等に限定されている。神経痛、筋肉痛、関節痛、しみ・そばかす等のような特定部位の症状に対する効能・効果については、医薬品においてのみ認められている。
また、医薬部外品の保健薬は配合成分や分量は人体に対する作用が緩和なものに限られ、カシュウ、ゴオウ、ゴミシ、ジオウ、ロクジョウ等の生薬成分については、医薬品においてのみ認められている。ビタミン成分に関しても、1日最大量が既定値を超えるものは、医薬品としてのみ認められている。
2)ビタミン、カルシウム、アミノ酸等の働き、主な副作用
(a) ビタミン成分
滋養強壮保健薬のうち、1種類以上のビタミンを主薬とし、そのビタミンの有効性が期待される症状及びその補給に用いられることを目的とする内服薬を、ビタミン主薬製剤(いわゆるビタミン剤)という。
ビタミンは、「微量(それ自体エネルギー源や生体構成成分とならない)で体内の代謝に重要な働きを担うにもかかわらず、生体が自ら産生することができない、又は産生されても不十分であるため外部から摂取する必要がある化合物」と定義される。これに対し、不足した場合に欠乏症を生じるかどうか明らかにされていないが、微量でビタミンと同様に働く又はビタミンの働きを助ける化合物については「ビタミン様物質」と呼ばれる。
ビタミン成分等は、多く摂取したからといって適用となっている症状の改善が早まるものでなく、むしろ脂溶性ビタミンでは、過剰摂取により過剰症を生じるおそれがある。
① ビタミンA
ビタミンAは、夜間視力を維持したり、皮膚や粘膜の機能を正常に保つために重要な栄養素である。
ビタミンA主薬製剤は、酢酸レチノール、パルチミン酸レチノール、ビタミンA油、肝油等が主薬として配合された製剤で、目の乾燥感、夜盲症(とり目)の症状の緩和、また妊娠・授乳期、病中病後の体力低下時、発育期等のビタミンAの補給に用いられる。
一般用医薬品におけるビタミンAの1日分量は4000国際単位が上限となっているが、妊娠3ヶ月前から妊娠3ヶ月までの間に、ビタミンAを1日10000国際単位以上摂取した妊婦から生まれた新生児において先天異常の割合が上昇したとの報告がある。そのため、妊娠3ヶ月以内の妊婦、妊娠していると思われる女性及び妊娠を希望する女性では、医薬品以外からのビタミンAの摂取を含め、過剰摂取に留意される必要がある。
② ビタミンD
ビタミンDは、腸管でのカルシウム吸収及び尿細管でのカルシウム再吸収を促して、骨の形成を助ける栄養素である。
ビタミンD主薬製剤は、エルゴカルシフェロール又はコレカルシフェロールが主薬として配合された製剤で、骨歯の発育不良、くる病の予防、また妊娠・授乳期、発育期、老年期のビタミンDの補給に用いられる。
ビタミンDの過剰症としては、高カルシウム血症、異常石灰化が知られている。高カルシウム血症は、血液中のカルシウム濃度が非常に高くなった状態で、自覚症状がないこともあるが、初期症状としては、便秘、吐き気、嘔吐、腹痛、食欲減退、多尿等が現れる。
③ ビタミンE
ビタミンEは、体内の脂質を酸化から守り、細胞の活動を助ける栄養素であり、血流を改善させる作用もある。
ビタミン主薬製剤は、トコフェロール、コハク酸トコフェロール、酢酸トコフェロール(トコフェロール酢酸エステル)等が主薬として配合された製剤で、末梢血管障害による肩・首すじのこり、手足のしびれ・冷え、しもやけの症状の緩和、更年期における肩・首すじのこり、冷え、手足のしびれ、のぼせ、月経不順の症状の緩和、又は老年期におけるビタミンEの補給に用いられる。
ビタミンEは下垂体や副腎系に作用してホルモン分泌の調節に関与するとされており、ときに生理が早く来たり、経血量が多くなったりすることがある。この現象は内分泌のバランス調整による一時的なものであるが、出血が長く続く場合には他の原因による不正出血(Ⅵ(婦人用薬)参照。)も考えられるため、医療機関を受診して専門医の診療を受けることが望ましい。
④ ビタミンB1
ビタミンB1は、炭水化物からのエネルギー産生に不可欠な栄養素で、神経の正常な働きを維持する作用がある。また、腸管運動を促進する働きもある。
ビタミンB1主薬製剤は、塩酸チアミン、硝酸チアミン、硝酸ビスチアミン、チアミンジスルフィド、塩酸フルスチアミン、ビスイブチアミン等が主薬として配合された製剤で、神経痛、筋肉痛・関節痛(腰痛、肩こり、五十肩など)、手足のしびれ、便秘、眼精疲労、脚気の症状の緩和、また、肉体疲労時、妊娠・授乳期、病中病後の体力低下時におけるビタミンB1の補給に用いられる。
⑤ ビタミンB2
ビタミンB2は、脂質の代謝に関与し、皮膚や粘膜の機能を正常に保つために重要な栄養素である。
ビタミンB2主薬製剤は、酪酸リボフラビン、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、リン酸リボフラビンナトリウム等が主薬として配合された製剤で、口角炎、口唇炎、口内炎、舌炎、湿疹、皮膚炎、かぶれ、ただれ、にきび、肌荒れ、赤鼻、目の充血、目の痒かゆみの症状の緩和、また、肉体疲労時、妊娠・授乳期、病中病後の体力低下時におけるビタミンB2の補給に用いられる。ビタミンB2の摂取により、尿が黄色くなることがある。
⑥ ビタミンB6
ビタミンB6は、蛋白質の代謝に関与し、皮膚や粘膜の健康維持、神経機能の維持に重要な栄養素である。
ビタミンB6主薬製剤は、塩酸ピリドキシン又はリン酸ビリドキサールが主薬として配合された製剤で、口角炎、口唇炎、口内炎、舌炎、湿疹、皮膚炎、かぶれ、ただれ、にきび、肌荒れ、手足のしびれの症状の緩和、また、妊娠・授乳期、病中病後の体力低下時におけるビタミンB6の補給に用いられる。
⑦ ビタミンB12
ビタミンB12は、赤血球の形成を助け、また、神経機能を正常に保つために重要な栄養素である。
シアノコバラミン、塩酸ヒドロキソコバラミン等として、ビタミン主薬製剤、貧血用薬等に配合されている。
⑧ ビタミンC
ビタミンCは、体内の脂質を酸化から守る作用(抗酸化作用)を示し、皮膚や粘膜の機能を正常に保つために重要な栄養素である。メラニンの産生を抑える働きもあるとされる。
ビタミンC主薬製剤は、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム又はアスコルビン酸カルシウムが主薬として配合された製剤で、しみ、そばかす、日焼け・かぶれによる色素沈着の症状の緩和、歯ぐきからの出血・鼻出血の予防、また、肉体疲労時、妊娠・授乳期、病中病後の体力低下時、老年期におけるビタミンCの補給に用いられる。
⑨ その他
皮膚や粘膜などの機能を維持することを助ける栄養素として、ナイアシン(ニコチン酸アミド、ニコチン酸)、ビタミンB5(パントテン酸カルシウム、パンテトン酸ナトリウム、パンテノール等)、ビオチンが配合されている場合がある。
(b) カルシウム成分
カルシウムは骨や歯の形成に必要な栄養素であり、筋肉の収縮、血液凝固、神経機能にも関与する。
カルシウム主薬製剤は、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム等が主薬として配合された製剤で、虚弱体質、腺病質における骨歯の発育促進、妊娠・授乳期の骨歯の脆弱予防に用いられる。
カルシウムの過剰症としては、高カルシウム血症が知られている。カルシウムを含む成分は、胃腸薬等、カルシウムの補給を目的としない医薬品においても配合されており、併用によりカルシウムの過剰摂取を生じることのないよう留意される必要がある。
(c) アミノ酸成分
① システイン
髪や爪、肌などに存在するアミノ酸の一種で、皮膚におけるメラニンの生成を抑えるとともに、皮膚の新陳代謝を活発にしてメラニンの排出を促す働き、また、肝臓においてアルコールを分解する酵素の働きを助け、アセトアルデヒドと直接反応して代謝を促す働きがあるとされる。
システイン又は塩酸システインが主薬として配合された製剤は、しみ・そばかす・日焼けなどの色素沈着症、全身倦けん怠、二日酔い、にきび、湿疹、蕁麻疹、かぶれ等の症状の緩和に用いられる。
② アミノエチルスルホン酸(タウリン)
筋肉や脳、心臓、目、神経等、体のあらゆる部分に存在し、細胞の機能が正常に働くために重要な物質である。肝臓機能を改善する働きがあるとされ、滋養強壮保健薬等に配合されている場合がある。
③ アスパラギン酸ナトリウム
アスパラギン酸が生体におけるエネルギーの産生効率を高めるとされ、骨格筋の疲労の原因となる乳酸の分解を促す等の働きを期待して用いられる。
(d) その他の成分
ヘスペリジンはビタミン様物質のひとつで、ビタミンCの吸収を助ける等の作用があるされ、滋養強壮保健薬のほか、かぜ薬等にも配合されている場合がある。
コンドロイチン硫酸は軟骨組織の主成分で、軟骨成分を形成及び修復する働きがあるとされる。コンドロイチン硫酸ナトリウムとして関節痛、筋肉痛等の改善を促す作用を期待してビタミンB1等と組み合わせて配合されている場合がある。
グルクロノラクトンは、肝臓の働きを助け、肝血流を促進する働きがあり、全身倦怠感や疲労時の栄養補給を目的として配合されている場合がある。
ガンマ-オリザノールは、米油及び米胚芽油から見出された抗酸化作用を示す成分で、ビタミンE等と組み合わせて配合されている場合がある。
塩化カルニチンについては、Ⅲ(胃腸に作用する薬)を参照のこと。
3)代表的な配合生薬等、主な副作用
◇ 生薬成分
ニンジン、ジオウ、トウキ、センキュウが既定値以上配合されている生薬主薬保健薬については、虚弱体質、肉体疲労、病中病後(又は、病後の体力低下)のほか、胃腸虚弱、食欲不振、血色不良、冷え症における滋養強壮の効能が認められている。
また、数種類の生薬をアルコールで抽出した薬用酒も、滋養強壮を目的として用いられる。血行を促進させる作用があることから、手術や出産の直後等で出血しやすい人では使用を避ける必要がある。また、アルコールを含有するため、服用後は乗り物又は機械類の運転操作等を避ける必要がある。
(a) ニンジン
ウコギ科のオタネニンジンの細根を除いた根を用いた生薬で、天日で乾燥させたものをハクジン、湯通ししてから乾燥させたものをコウジンということもある。別名を高麗人参、朝鮮人参とも呼ばれる。神経系の興奮や副腎皮質の機能亢進等の作用により、外界からのストレス刺激に対する抵抗力や新陳代謝を高めるとされる。
同様の作用を期待して、チクセツニンジン(ウコギ科のトチバニンジンの根茎)も用いられる。チクセツニンジンは外用薬の有効成分としても用いられるが、その場合については、Ⅹ(皮膚に用いる薬)を参照のこと。
(b) ジオウ、トウキ、センキュウ
これら生薬成分については、Ⅵ(婦人薬)を参照のこと。
(c) ゴオウ、ロクジョウ
これら生薬成分については、Ⅳ-1(強心薬)を参照のこと。
(d) インヨウカク、ハンピ
インヨウカク(メギ科のイカリソウの蕾つぼみを含む葉及び茎)、ハンピ(クサリヘビ科のマムシの皮及び内臓を取り除いたもの又は黒焼にしたもの)は、強壮、血行促進、強精(性機能の亢進)等の作用を期待して用いられる。
(e) ヨクイニン
イネ科のハトムギの種皮を除いた種子を用いた生薬で、肌荒れやいぼに用いられる。
ビタミンB2主薬製剤やビタミンB6主薬製剤、瀉下薬等の補助成分として配合されている場合もある。
(f) その他
主に強壮作用を期待して、以下のような生薬成分が配合されている場合もある。
◇ 漢方処方製剤
滋養強壮に用いられる主な漢方処方製剤として、十全大補湯、補中益気湯がある。いずれも構成生薬としてカンゾウを含んでいる。カンゾウが含まれる漢方処方製剤に共通する留意点については、Ⅱ-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照のこと。
漢方処方製剤は、症状の原因となる体質の改善を主眼としているため、比較的長期間(1ヶ月位)服用されることがある。その場合に共通する留意点については、ⅩⅣ-1(漢方処方製剤)を参照のこと。
(a) 十全大補湯
病後の体力低下、疲労倦けん怠、食欲不振、寝汗、手足の冷え、貧血に適すとされるが、胃腸の弱い人では、胃部不快感の副作用が現れやすい等、不向きとされる。
まれに重篤な副作用として、肝機能障害を生じることが知られている。
(b) 補中益気湯
元気がなく胃腸の働きが衰えて、疲れやすい人における、虚弱体質、疲労倦怠、病後の衰弱、寝汗の症状に適すとされる。
まれに重篤な副作用として、間質性肺炎、肝機能障害を生じることが知られている。
4)相互作用、受診勧奨
【相互作用】
滋養強壮保健薬は、多く摂取したからといって適用となっている症状の改善が早まるものでなく、また、滋養強壮の効果が高まるものでもない。
漢方処方製剤、生薬成分が配合された医薬品における相互作用に関する一般的な事項については、ⅩⅣ(漢方処方製剤・生薬製剤)を参照のこと。
【受診勧奨】
滋養強壮保健薬は、ある程度継続して使用されることによって効果が得られる性質の医薬品であるが、1ヶ月位服用しても症状の改善がみられない場合には、栄養素の不足以外の要因が考えられるため、漫然と使用を継続することなく、症状によっては医療機関を受診する等、適切な対処が図られることが重要である。
肩・首筋のこり、関節痛、筋肉痛、神経痛、手足のしびれについては、ナトリウムやカリウム等の電解質バランスの乱れによっても生じる。また、痛み等を感じる部位が、問題のある部位と必ずしも一致しない場合がありiv、症状が慢性化しているような場合には、医師の診療を受けることが望ましい。その他、肩・首筋のこり、関節痛等の症状に対する受診勧奨については、Ⅰ-2(解熱鎮痛薬)、Ⅹ(皮膚に用いる薬)を参照のこと。
目の乾燥感、眼精疲労、目の充血については、涙腺の異常、あるいはシェーグレン症候群のような涙腺に障害を及ぼす全身疾患によるものである場合があり、医療機関を受診して専門医の診療を受けることが望ましい。
口内炎、口角炎、口唇炎、舌炎については、疱疹ウイルスの感染が再燃・沈静を繰り返している場合があり、重症化した場合には、医師の診療を受ける必要がある。その他、口内炎等の症状に対する受診勧奨については、ⅩⅠ-2(口内炎用薬)を参照のこと。
肌荒れ、にきび、湿疹しん、皮膚炎、かぶれについては、それぞれの原因に対する防御策が図られることが重要であり、Ⅹ(皮膚に用いる薬)を参照のこと。
しみ、そばかす、日焼け・かぶれによる色素沈着については、皮膚にある色素の点(特に、黒又は濃い色のもの)が次第に大きくなったり、形や色が変化してきたような場合には、悪性黒色腫のような重大な病気の可能性も考えられるので、早期に医療機関を受診して専門医の診療を受けることが望ましい。その他、皮膚症状に対する受診勧奨については、Ⅶ(アレルギー用薬)、Ⅹ(皮膚に用いる薬)を参照のこと。
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