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2、健康と陰陽について |
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何事も中庸が大切で、「過ぎたるは及ぶが如し」であります。
すべて、天の理は陰陽のバランスにあり、陰陽の循環の中に生かされています。健康は、陰陽のバランスが整っている状態をいい、病気は、陰陽のアンバランスから始まり、その治療は、陰陽のバランスをもって行ないます。
陰陽論は、古代中国において発祥した自然哲学的思想です。現代でもその考え方は、我々の日常生活に息づいており、東洋的ものの見方の原点になっています。
陰陽論とは、森羅万象、全てを「陰」の概念と「陽」の概念に分け、互いに対立し、調和するものとしてとらえると共に、万物の生成・消滅はこの「陰」と「陽」の変化によって捉えるということです。
つまり、万物ありとあらゆる物は、相反する「陰」と「陽」の二つ気(エネルキー)によって生成・消滅・変化し、「陰」と「陽」の二気の調和(バランス)によって自然の調和が保たれるという考え方です。
そこで、先ず自然界の事象を陰と陽に分類すれば、次のようになります。
このように森羅万象、全てを「陰」の概念と「陽」の概念に分け、互いに対立するものとして捉えることができますが、陰陽論は、単純な二元論とは異なり、その中に変化を加え、その調和をはかるという動態的で循環的な思考が特徴です。それを象徴的に表現しているのが太極図です。
太極図を見れば分ります様に、白と黒の「陰陽の勾玉」(まがたま)によって表現されていますが、「陰」を象徴する勾玉と「陽」を象徴する勾玉が絡み合って成り立っているというのがその基本的概念です。 |
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つまり、必ず「陰」があれば「陽」があり、「陽」があれば「陰」があるという相対的概念で、しかも互いに対立しながらも、「陽」が多くなれば「陰」が少なくなり、「陰」が多くなれば「陽」が少なくなる互いに依存する関係もあります。
黒の勾玉(陰)の中に陽の眼があり、白の勾玉(陽)の中に陰の眼がありますが、陰陽は、絶対的なものはなく、相対的で、「陰中陽」あるいは「陽中陰」という状態があり、陰陽それぞれに逆の属性が含まれていることも意味します。(陰中陽有、陽中陰有)
そして、「陰」と「陽」のそれぞれの勾玉が次第に広がり、互いに食い入る形になっているのは、陰陽それぞれの気が徐々に盛んになり、やがて相手の気を飲み込もうとする量的変化をも示しています。(陰陽消長)
また、「陰」極まれば「陽」となり、「陽」極まれば「陰」になります。これはいくら「陰」が強くなっても陰中の陽により、「陽」に転じることを示し、逆にいくら「陽」が強くなっても陽中の陰により、「陰」に転じることを示しています。(陰陽転化)
このように陰陽は、静止不変の状態にあるのではなく、消長(増減)により量的にも変化し、常にバランスを取るように作用し合いますが、この陰陽のバランスが急激に崩れた時、異常が発生するということになり、人間の身体で言えば病気となるのです。
つまり、この陰と陽のバランスと対立、変化を基礎にした思考が陰陽論で、自然とのバランス、環境とのバランス、身体のバランス、精神のバランス、食事のバランス、意識のバランス、行動のバランス等々、それらのアンバランスを読み取り、平衡・均衡状態を求めていくことが陰陽論の実践になります。
このように、陰陽消長、陰陽転化、陰中陽有、陽中陰有などは、陰陽論独自など特徴的概念ですが、太極図は、この陰陽の変化、バランス、循環を永遠に繰り返すことを示すシンボリックな図です。
陰陽論では、森羅万象すべて二元対立的事象ととらえますが絶対的対立でなく、相対的対立として捉え、その陰陽対立の矛盾があっても、矛盾の中から調和をめざし、循環して変化していく中から、万物の発生・発展・消滅を考えます。
さらに、自然界における陰陽を昇華して、一般的概念として陰と陽に分類すれば、次のようになります。
陰陽論では、こうして森羅万象、全ての事象を「陰」の概念と「陽」の概念に分け、互いに対立し、調和するものとしてとらえると共に、人間を始め万物の生成・発展・消滅はこの「陰」と「陽」の変化によってとらえる事が出来るようになります。
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右が陰で、左が陽になっているのは、太極図において下側の黒色で陰を意味する勾玉が右にあり、上側の白色で陽を意味する勾玉が左にあるからです。陰陽太極の基本図では、太陽(白の勾玉)が上で太陰(黒の勾玉)は下になっています。 |
また右(みぎ)が、「水極り(みぎ)」のことで、陰の水が極まるのは、陰の意味するで、左(ひだり)が、「火足り(ひだり)」のことで、陽の火が足りるという陽の意味をするからだとも言われています。
例えば、太陽の動きを陰陽で考えて見ると、太陽は東から南に昇り、西へ沈みます。いわゆる時計回りを動きをするので、右回りは陽、逆に反時計回りの左回りは陰となります。
そこで、北半球では高気圧は、吹き出す風が時計回り(右回り)で、乾いて、広がり、上昇する風になるので、陽となります。逆に、低気圧は、吹き込む風が反時計回り(左回り)で、湿って巻き込み、下降する風となっているので、陰となります。これが自然の理です。
また、時計の針が右回りになっているのは、むかし日時計が右回りの太陽の動きを元にして作られたからだといわれています。
太極図を男女の関係から見れば、陽の勾玉が男で、陰の勾玉が陰で、互いに絡み合っていますが、これは陰陽和合、男女和合を示し、凹は陰で、凸は陽で、男女の属性も示しています。
太極図の白黒の勾玉の中に黒白の眼がありますが、これは「陰中陽」あるいは「陽中陰」を示しており、男っぽい女、女っぽい男がいるのと同じです。また、女性は陰で,男性は陽ですが、女性に男性ホルモンがあり、男性に女性ホルモンがあるのと同じ、私たちはそのバランスの中で生かされています。
このように陰陽論は、森羅万象すべての事象を陰・陽の二つのタイプのどちらかに分類することから始まり、総合的な把握と理解をすることのできる現代でも通用する自然哲学的思想です。
そこで陰陽の関係をまとめて見ると、次のようになります。
1、すべての事象は、陰陽に無限に分けることができる。
2、陰陽は、相互に対立しているが、相互に補完しあう関係である。
3、陰陽は、相互に依存しているが、相互に制約しあう関係である。
4、陰陽は、対立・補完と依存・制約という矛盾関係にある。
5、陰陽は、相対的な調和と平衡的バランスを維持しようとする。
陰虚すれば陽虚し、陽虚すれば陰虚する。
陰実すれば陽実し、陽実すれば陰実する。
⇒陰陽が互いにバランスをとるように作用する。
6、陰陽は、常に量的にも変化する
陰虚すれば陽実し、陽虚すれば陰実する。
陰実すれば陽虚し、陽実すれば陰虚する。
⇒一方が増えれば、一方が減る。一方が栄えれば一方が衰え
ることで、風邪で寒気(陰)を感じたとき、熱が出る(陽)というよ
うな変化をいいます。
寒暖の変化で気候が春夏秋冬と変わる様子と同じです。
7、陰陽は、質的にも変化する
陰極まれば陽となり、陽極まれば陰となる。
⇒「物極まれば必ず反する」ということで、古い事物が滅びてい
く時には、新しい事物が生まれる。「奢れる人も久しからず。盛者
必衰の理をあらわす。」という法則にもつながります。
8、陰中に陽あり、陽中に陰あり。
⇒世の中すべての事象には純粋に陰だけ、純粋に陽だけという
ものはなく、陰の中にも陽の要素があり、陽の中にも陰の要素が
あり、陰中の陰、陰中の陽、陽中の陽、陽中の陰と表現されます
陰陽論では、森羅万象すべてこの「陰陽の法則」に従っており、すべての事象はこの「陰陽の法則」に照らして考えれば、あらゆる事実を理解することができる自然法則です。そして、この法則は、自然界のみならず、天地人すべて身体の内部まで支配しています。人間もまた、小宇宙として自然界の「陰陽の法則」の支配を受けています。
伝統的な漢方医学では、この陰陽論と後で述べる五行説によって人体の全ての各器官の病態把握と治療の方法を体系づけました。
中国最古の医学書の「素問」では、自然と人の関係、病気の在り方などの変化をこの陰陽によって論じ、これがやがて後漢時代に書かれた「傷寒論」に継承され、ほぼ現代の漢方理論の体系が完成したのです。
陰陽論だけでは臓腑の病理が十分反映されないため、臓腑の説明が可能な五行説が必要で、陰陽論は五行説と結びついて陰陽五行説として体系づけられました。
陰陽論における人体と陰陽の関係を分類すれば、次のようになります。
人間は、天地の間に存在し、天の気(空気)と地の気(食物)を受けて生命活動を営んでおり、自然界のバランス調整、つまり「陰陽の法則」を受けるのは当然です。「陰陽」は、互いに対立し合うが同時に依存し補完し合う関係ですが、この概念は、人体の組織構造、生理機能、病理変化の説明に用いられます。
陰陽が人体に及ぼす生体生理の概念を整理し、分類すれば次のようになります。
これら二元論的陰陽の概念が基礎になり、五行説と結びついて独自の漢方病態把握法、つまり伝統的な漢方理論、傷寒論や八綱弁証論などが体系づけられました。続きは「陰陽五行説について」へ。
陰陽論は、漢方医学のみならずすべての事象を理解するのに役立つ大切な思考法で、現在に至るまであらゆる部門に影響を与えています。現代人の私たちも陰陽論的思考を無意識に取り入れ行動しています。正しく陰陽論を認識したいものです。
聖徳太子の十七条憲法の「十七」は、陰数の最大値の八と陽数の最大値の九を加えて十七とされ、また、第1条の「以和爲貴」(和をもって貴しとなす)は、その陰陽の調和の精神を言われたのではないかと思われます。
現代は、コンピューター言語に「0」と「1」の2進法を使って情報処理、演算を行い、科学技術を発展させてきましたが、この二元論的考えに相通じるものがありますが、しかし、東洋文化思想での陰陽論は、単純な二元論とは異なり、その中に変化を加え、その調和をはかるという動態的で循環的な思考が特徴です。それを象徴的に表現しているのが太極図だったのです。
世界で初めて複式簿記の書を残したのは、修道僧でありかつ数学者であるルカ・パチョーリ(1445-15世紀前半)ですが、この複式簿記は、当時のデカルト的二元論に、イスラム商人が何らかの形で、中国の「陰陽五行論」の影響を受け、「借方」、「貸方」という陰陽概念に、「資産、負債、資本、収益、費用」という取引の要素を「木、火、土、金、水」のように五つに分けて、体系化したのでないかといわれています。
貸借対照表は、資産という「陽」と負債、資本という「陰」の静態的バランスを示し、損益計算書は費用という「陽」と収益という「陰」の動態的バランスを示しています。複式簿記は、貸方と借方つまり「陰」と「陽」が常に均衡して計算、表示表示される帳簿記帳法です。。
よく簿記を習う初心者がよく引っかかる借方・貸方というのは、福沢諭吉が、「debit」・「credit」をそれぞれ「借方」・「貸方」と翻訳したことによると言われていますが、本来的な意味はなく、むしろ左方・右方でも、陰・陽でも良かったのはないでしょうか。このように、現代の企業経営の基礎をなす複式簿記にもまた陰陽論の思考が根底あります。
このように陰陽論は、現代でも衣・食・住・医あらゆるところに深く浸透し、重要な生活原理として今も生き続けています。
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